私が大学生の頃の話。
帰りにタバコを買おうと思って足を止めたときのことでした。
6~7歳位の女の子がそばに寄ってきたのです。
「こんにちは」
私は変な子だなと思いましたが一応
「こんにちは」
と返しました。
「なにしてるんですか?」
「何ってタバコ買おうとしてるんだけど」
妙に話しかけてくるその子に、私はついそっけない態度で接していました。
私が財布を出しタバコを買い終えるまで、その女の子は
「いい天気ですね」
とか
「何年生ですか」
とか話しかけ続けてきました。
私は適当に答えていました。
31: >>29の続き:2011/05/23(月) 02:09:23.50 ID:/PhlITMV0
私がそこを離れようとするとその子は
「お母さんが呼んでるから来てください」
と言って私の手を引っ張るのです。
私はいよいよおかしいと感じました。
私に用があるとでも言うのでしょうか。
私はなんとか誤魔化して帰ろうとしましたが、女の子はこちらを振り返りもせずに
「呼んでますから」
と言い続け、私を連れて行こうとするのです。
私はその執念のようなものに引きずられるかのように、女の子の後に付いていきました。
『もしかしたら本当に困っているのかもしれない』
と思いもしました。
32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/23(月) 02:10:34.06 ID:/PhlITMV0
5分ほど歩くと少し大きめの公園に着きました。
ブランコやジャングルジム、藤棚やベンチが見えます。
夕暮れ近いせいか、人影はありませんでした。
女の子は藤棚の方に私を連れて行きました。
その公園の藤棚は天井の他にも、側面の2面にも藤が伸びるようになっていました。
中にはベンチがあるのでしょう。
女の子は
「お母さん連れてきたよ」
と藤棚の中に向かって呼びかけました。
私からは角度が悪くてそのベンチは見えませんでした。
中を覗きたかったのですが、私の手をしっかり握っている女の子を振りほどくのが、
なんだか悪いような気がして出来ませんでした。
「すいません、うちの娘が」
と藤棚の向こうから声がしました。
普通の、何の変哲もない女の人の声でした。
ですがその声を聞いた瞬間、全身に鳥肌が立ち、ヤバいという気持ちになったのです。
一刻も早くそこから逃げ出したくなりました。
33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/23(月) 02:11:14.70 ID:/PhlITMV0
「わたし、遊んでくる」
と唐突に女の子が言い、藤棚のすぐ向こうにあるジャングルジムへ向かって行きました。
私ははっと我に返りました。
「すいません、うちの娘が」
また、あの声がしました。
なんの変哲もない声。
今度は鳥肌も立ちません。
『気のせいだったのか・・・?』
私は意を決して藤棚の向こう側、ベンチの見える場所に、ほとんど飛び出すような勢いで進みました。
飛び込みざま、ばっとベンチを振り返ります。
・・・そこには少し驚いたような顔をした女性が座っていました。
肩くらいまでの髪をした30過ぎくらいの女性です。
「すいません、うちの娘が」
彼女は今度は少しとまどい気味にそう言いました。
『・・・なんだ、普通の人じゃないか』
そう思うと急に恥ずかしくなり私は
「ええ、まぁ、いえ」
などと返すのが精一杯でした。
34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/23(月) 02:12:56.70 ID:/PhlITMV0
私はその後、その女の子の母親と軽く世間話をしました。
天気がどうだの、学校がどうだのと、どうでもいい話なので省きますが。
母親も言葉少なですが普通に話していました。
女の子は藤棚のすぐ隣、私の背後にあるジャングルジムで遊んでいます。
そろそろ日も沈もうかという頃合い。
公園はオレンジ色に染まりつつありました。
私はふと、当初の目的を思い出しました。
何故私がここに連れてこられたのか、です。
そこで
「あの、どうして僕をここへ・・・」
と問いかけました。
その瞬間です。
「チエっ!!」(※注:仮名)
と、もの凄い声で母親が叫びました。
恐らくあの女の子の名前。
私はばっと背後のジャングルジムを振り返りました。
すると目の前に何かが落ちてきて、鈍い音と何かの砕ける音が足下でしました。
ゆっくりと足下に視線を向けると、
あの女の子、チエという女の子が奇妙にねじくれて倒れていました。
体はほぼ俯せなのに顔は空を向いています。
見開いた目は動きません。
オレンジ色の地面に赤い血がじわじわと広がっていくのを、私は呆然と見ていました。
35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/23(月) 02:14:19.33 ID:/PhlITMV0
『警察、救急車、電話・・・』
などと単語が頭の中を飛び交いましたが体は動かなかったのです。
そのとき女の子がピクリと動き、何事かを呟きました。
まだ生きてる!と私は走り寄り女の子が何を言ってるのか聞き取ろうとしました。
「・・・かあ・・・さ・・・」
『お母さんと言ってるのか!?』
私は藤棚を振り返りました。
ですが彼女の母親の姿はそこにはありませんでした。
そういえば・・・最初に叫んだときから母親はここへ駆け寄ってもきていません。
助けを呼びに行ったのでしょうか。
「お・・・いちゃ・・・」
再び女の子が呟いたので私はそちらの方を向きました。
「大丈夫だから、お母さんが助けを呼んでくれるから」
と、そんなことを女の子に言ったような気もします。
でも気休めです。
どう見ても首が折れているようにしか見えませんでした。
私は今ここにいない彼女の母親に怒りを覚えました。
「おか・・・さんが・・・よんで・・・か・・・」
女の子はまだ呟いています。
36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/23(月) 02:14:59.88 ID:/PhlITMV0
『・・・おかあさんが呼んでるから・・・?』
私は上、ジャングルジムを見上げました。
そこには、さっきの母親がぶら下がっていました。
濁った目、突き出た舌、
あまり書きたくない死人の顔です。
そして母親の外れた顎がぐりっと動き
「すいません、うちの娘が」
後はあまり覚えてません。
私はその時に気を失ったのだと思います。
私は気付くと夜の公園で呆けていました。
そのジャングルジムはその後取り壊されたと記憶しています。
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