ある男が夜遅くバスで家に帰ろうとした。
が、駅に着いたときにはもう深夜近く、バスがまだくるかどうか分からない。
しかし家までは遠く、とてもじゃないが歩ける距離ではなかった。
彼は意を決してそこでずっと待っていた。
もうこないかと諦めかけたとき、突然バスが現れた。
彼はうれしくてそそくさと乗った。
と同時に、ふと違和感を感じた。
こんな夜中なのに何故か混んでいて、座れる席は一つしかない。
しかも人が大勢いるのに、誰もが口を閉ざし、バス内は静まり返っていた。
不審だと思いつつも、彼は唯一空いてた席に座った。
隣には一人の女性がいた。
彼女は声を押さえ彼の耳元でこう囁いた。
「あなたこのバスに乗るべきではないよ」
彼は黙って続きを聞くことにした。
彼女は続けた。
「このバスは霊界に行くものよ。あなたのような生きてる人がどうしてここにいるの? このバスに居る人は誰も霊界にいきたくないよ。あなたはすぐ彼らに捕まって誰かの替わりとして死んでしまうわよ」
彼は怖さのあまり言葉もでなかった。
身を震わせながら、どうすればいいかさえわからず途方に暮れていた。
その時、彼女が
「大丈夫、私が助けてあげる」
と言い出した。
そして突然!
彼女は窓を開けて彼を連れて飛び降りた。
バスの乗客が「ああ!! 逃げられちまった」と大声で叫んだ。
彼が落ち着いたとき、彼女と二人で荒れた丘に立っていた。
彼は彼女に「助けてくれてありがとう」と伝えた。
その瞬間、彼女の口元が歪み、筋肉を痙攣させながらニタッと笑った。
そしてこう言った。
「これであの人たちと奪い合わなくてもいいわね」
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